FEATURE特集
人々の「時」に寄り添う[杉並区立中央図書館]
時と空間の陰、
あるいは地域とつながる
街のコミュニティスペース
1982年に竣工した杉並区立中央図書館(設計;黒川紀章建築都市設計事務所)の改修プロジェクトである。
設計時には築36年が経過し、老朽化した設備機器類の全面的な更新時期に合わせ、区民サービス向上を目的として、プラン変更や図書館機能の拡張を行った。
図書資料を収集する元々の役割に加え、個人や地域の課題解決と交流スペースを提供する現代的な価値への刷新を試みた。
電子媒体時代の拡張された図書館は、Wi-Fiの電波の届く範囲そのものである。その領域に内も外もない。
タブレットと腰掛けるちょっとしたスペース、ふんわりとした光と陰、そして「涼/温」な熱の優しさがあれば良い。
そこで、内部の居住域に微気候環境を作り出す床輻射冷暖房と、書架から照らされる「ゆるやかな弧」が連続するライトシェードに光を造形して、ラグジュアリーな落ち着いたインテリア空間を生み出した。
外部は、カフェテラスとあわせて既存樹木林と地形を生かして、グループ利用に適したデッキを小さなスロープでつないだ。この「木陰」のあるエクステリア空間を「本の広場」と呼び、チェアやベンチを散りばめた。館内Wi-Fiも届くこのエリアは隣接する公園と連続するブックパークであり、動植物と人が共に暮らす街のリビングでもある。
建築はXLスケールの日陰を生み出すと共に、そこには「陰」のシークエンスと質感のある「空間」がある。これまでも、そして、これからもこのスペースで過ごす人々の「時」に寄り添い続けることだろう。
新たな屋外の居場所「本の広場」
1982年の竣工当時にはなかった読書の森公園が、15年程前西側隣地に整備されたが、建物西側は、クヌギやエノキなどの大木の林冠が空を覆っていた。
その鬱蒼と生い茂る薄暗い林に間伐と枝抜きを行い、明るい日の光と風通しの良さをもたらした。間伐により下層の既存紅葉にも光が当たるようになったため、下枝の上がった既存樹に加え、視線に近い位置で紅葉や花などを楽しめるイロハモミジやヤマボウシなどを新植した。
もともとあった高低差を生かして、既存樹木の根の保護を兼ねた浮床のデッキを設け、適度にカラフルな椅子やテーブルを配置して、利用者自らが好む場所を選ぶことができる「憩いの場」を生み出した。
1階に再配置されたカフェテラスの拡張エリアとして、これまでの図書館の長年の課題であった慢性的な閲覧席不足解消もかね、適度な暗騒音のあるこのエクステリア空間に、ランドスケープを導入した。埋もれていた図書館の個性のある雁行したカーテンウォールで構成されたファサードを発掘し、生まれ変わった図書館の新たな顔と共に、「地域とつながる街のコミュニティスペース」を提供している。
既存諸室のレイアウト変更と免振書架
改修計画時点で、要望の多かった現状の使い勝手上の課題を解決する為、個々の活動の妨げにならないように、一般開架・児童調べもの・新聞雑誌の主要3ゾーンの構成を変えている。
誰でも気軽に立ち寄れるように、接地性の強いグランドフロアー(1階)に、一般書、カフェ、展示コーナーを集め、目的や特定の属性が強い諸室を上下階に振りわけた。
原則5段以上の独立書架は、書架照明付の免震仕様を採用し、書架の倒壊及び書籍の落下を防ぎ、合わせて、排煙たれ壁をフィルムタイプとして、利用者の避難安全性を高めている。
居住域の微気候環境デザイン
省エネルギーと利用者の快適性を両立させ、「涼/温」の熱の優しさを具現化する為、床輻射冷暖房を1階に採用した。竣工後温度測定を行い、概ね温熱環境評価指数(PMV)の推奨快適範囲に納まることを確認している。
エイジングされた外装の維持と雁行型カウンター
これまで、親しまれてきたオーセンティックなカーテンウォールとアルミパネルの外装は、まず全面的なクリーニングを行い、ガラス面には書籍への紫外線の影響を抑制する為、飛散防止フィルムを貼り、シルバーグレーのエイジングされた外観を維持する計画としている。また、慢性的な閲覧席不足を解消する為、建物の特徴である雁行したカーテンウォールにそって個人利用に適したカウンターと、閲覧テーブルやミーティングスペース等を設け、カフェと連続するエクステリア空間と共に、調べもの(閲覧)スペースを重点的に拡充している。
※1 撮影:川澄・小林研二写真事務所
※2 撮影:新建築社写真部
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